LLP・LLCの有効活用法とその設立・登記・解散(LLP書式一覧)





1.LLP・LLCとは


 LLP・LLCとは、Limited Liability Partnership (有限責任事業組合)Limited Liability Company (合同会社の略語で、個人や企業がより簡単に、そしてそれぞれの目的に合わせて会社を設立することを可能にする制度です。LLP・LLCは従来の「有限責任=物的組織」、「無限責任=人的組織」という枠組みから、有限責任であり人的組織という新しい第3類型の組織形態を導入することとなっています(図1参照)。この点でLLP・LLCは「株式会社」の利点と「組合」の利点を持ち合わせた新しい会社制度と言えます。そして「中小企業連携」、「ベンチャー振興」、「産学連携」、「事業再編」、「産業再生」、「研究開発促進」などといった場面で実際に用いられ始めています。それでは、具体的にLLP・LLCの制度の概要からを見ていきましょう。


(図1 会社内外関係とLLC・LLPの位置付け)
会社内部の関係
物的組織 人的組織
会社外部の関係 全構成員有限責任 株式会社

有限会社
LLC
合同会社
LLP
有限責任事業組合
無限責任 最低1人以上の無限責任構成者 合資会社 投資事業有限責任組合
全構成員無限責任 合名会社 民法上の任意組合
法人 組合
 投資事業有限責任組合
「投資事業有限責任組合契約に関する法律」に基づき設置される、投資を行うことに目的が限定されている組合をいう。資金を運用し業務執行を担う無限責任組合員と執行権を持たない代わりに責任が出資額の範囲内にとどまる有限責任組合員で構成される。宮田ほか『日本版LLP実務ハンドブック』(商事法務、2006)5頁。


2.LLP制度について


 LLPの大きなメリットは@有限責任であること、A内部自治原則が認められること、B構成員課税(パススルー)制度の3点に集約されます。では、それぞれのメリットとはどのようなものなのでしょうか。

●LLPの3つのメリット

@有限責任
 有限責任とは、出資者が、出資額を限度として事業上の責任を負う制度のことです。LLPでは、出資者である組合員が出資額を限度に事業上の責任を負担します。無限責任を負う業務執行者を必要としない点がLLPの大きな特徴であると言えます。また、有限責任制の導入とともに、債権者保護規定も整備され、有限責任事業組合契約の登記財務データの開示債務超過時の利益の分配の禁止などが義務付けられています。

A内部自治
 株式会社制度では、出資額に応じた損益配分・議決権行使が行われ、また、経営者を監視する取締役、監査役の設置が義務付けられており、透明性が高い一方で柔軟性に欠けています。
 そこでLLPは監視機関の設置は義務付けられないものとし、さらに損益配分などLLPの内部事項は出資者の間で柔軟に決定することが可能です。なお、LLPの意思決定は原則として出資者全員で行われ、出資者全員が経営に参加することになります。

B構成員課税
 組織段階では課税されず、出資者に直接課税されることとなりました。これにより、会社組織と個人の二重課税を避けることが可能となります。つまり、完全な構成員課税であり、「組合」としての税務申告をする義務は負わないということになります。

 以上3つのメリットを備えたLLPは法人格を持ちませんが、登記制度が存在しており契約行為の行為主体になることが可能です。


3.LLC制度について


LLC(合同会社)の大きな特徴は、@法人格が付与されること、A定款自治により柔軟に機関設計が可能であること、B有限責任であることの3点に集約されます。それぞれのメリットはどのようなものまなのでしょうか。

LLCの3つのメリット

@法人格の付与
 LLCは法人として権利義務の帰属主体となることが可能です。これは、LLPが法人格がなく、組合員としてしか契約締結できない点と異なり、LLCの大きな特徴と言えます。
 また、LLCでは、法人格を有するので、LLCから株式会社への組織変更も可能ですが、他方、LLPは株式会社に組織変更する場合には、いったんLLPを解散してから改めて株式会社を設立する必要がある点で異なります。
 なお、現在合名会社、合資会社の形態をとる会社から全社員を有限責任化することによってLLCに組織変更することも可能です(会社法638条)。

A定款自治
 LLCは原則として社員が業務執行を行い、定款で自由に重要な意思決定の方法について定めることができます。すなわち、取締役等の業務執行機関を必ずしも置く必要はありません(会社法577条)。ただし、業務執行者を定めてこれに業務を執行させることも可能です(会社法591条1項)。

B有限責任
 LLCの社員は有限責任であり、出資分につき全額払込みが義務付けられています(間接有限責任)(会社法576条4項、578条)。
 他方、債権者に対する配慮として、持分譲渡や退社による払い戻しには一定の制限が設けられています。例えば持分の譲渡については、定款に別段の定めがある場合を除き、総社員の一致が必要です(会社法585条1項、4項)。
 また、退社による払い戻しは、法定の退社事由による法定退社(会社法607条)、6ヶ月前に予告して行う任意退社(会社法606条1項)、やむを得ない事由による退社(会社法606条3項)によって退社することができます。そして退社した社員は、その持分について払い戻しを受けることができます(会社法611条1項)。


4.LLPとLLCの共通点と相違点


 LLPとLLCの主な共通点と相違点をまとめると以下のようになります。

●共通点

 @有限責任性(なお、LLCは出資全額払込主義を採用している。)
 A内部自治(但しLLPの意思決定は原則出資者全員で行う、他方LLCは定款で自由に定められる。)
 B人的会社


●相違点

○LLP
 @構成員課税
 A法人格なし(組合員の肩書付き名義でなければ、取引先等との契約を締結することができない。)
 B全ての組合員が業務執行に携わることが必要。
 C構成員が1人以上必要。
 DLLPから株式会社・LLC等の会社に組織再編することはできない。
 E株式会社・LLC等の会社との間で組織再編はできない。

○LLC
 @法人課税
 A法人格あり(合同会社は法人とされるためそれ自体が権利義務の帰属主体となる。)
 B必ずしも全ての社員が業務執行に携わる必要はない。
 C構成員が1人でも存続することが可能。
 D株式会社へ組織変更が可能。
 E株式会社・LLCの間で合併等の組織再編が可能。


(図2 LLPとLLCの共通点と相違点)

LLC LLP
共通点 @ 有限責任性
A 内部自治  
B 人的会社  
相違点 ・法人格あり ・法人格なし
・法人課税 ・構成員課税



5.LLP・LLCと株式会社の共通点と相違点



 1円会社の設立も可能となった現在、株式会社とLLP・LLCは何が違うのでしょうか?その共通点と相違点及びメリット・デメリットを探って見ます(図3「LLP、LLC、株式会社の共通点・相違点」参照)。

LLP・LLCと株式会社の共通点
 ・有限責任性
  →LLP・LLC・株式会社はいずれもその組合員、社員、株主が有限責任とされています。


LLP・LLCと株式会社の相違点

〇株式会社
 @会社内部関係に強行規定があり透明性が高いが、内部関係の柔軟性に欠ける
  →内部関係の強行規定として、意思決定機関である「株主総会」を設け、業務執行者である「取締役」、   経営者を監視する「監査役」等の機関を設置する義務があります。株主の信頼を得やすいため資本を   集めやすい一方で、内部関係の柔軟性に欠けることになります。
 A出資額に応じた損益配分・議決権行使
 B法人課税
 C株式の譲渡自由
  →株式会社では社員である株主の個性を問わないため株式の譲渡自由の原則が採用されています。
 D法人格あり

〇LLC
 @内部関係柔軟
  →LLCは機関設計、社員の権利内容等に強行規定がほとんどなく、定款自治が認められています。
      LLCではかならずしも業務執行役を置く必要はありません。
 A定款自治損益分配を定めることが可能
   定めがなければ出資額に応じて分配(会社法622条1項)。
 B法人課税
 C持分の譲渡全員一致が必要(会社法585条)。
 D法人格あり

〇LLP
 @内部関係柔軟
  →LLPは監視機関の設置は義務付けられません

 A損益配分などLLPの内部事項は出資者の間で柔軟に決定することが可能。
 B構成員課税
 C持分を自由に譲渡することができない
 D法人格なし

〇各事業体のメリット・デメリットのまとめ


@各事業体間の比較
 各事業体のメリットとデメリットの概要を見ていきましょう。まず、LLPとLLCを比べると、LLPは
構成員課税を用いることが可能であることにメリットがあります。LLCは現在のところ法人課税が課されるため、二重課税になってしまうというデメリットがあります。、他方、LLCは法人格があります。LLPは登記を行えば契約の当事者になれますが、法人格はありません
 次に、LLPと株式会社を比べた場合、LLPが内部関係が柔軟であり、損益配分を事由に決定できるというメリットがあります。この点株式会社は、株主総会、取締役会などを設置する必要があり、対外的な透明性はあることで
資金を集めやすいというメリットがある一方で、内部関係の柔軟性には欠け出資額に応じた損益分配、議決権行使がなされます。また、株式会社はLLCと同様法人格がある一方、法人課税が課されます。
 最後に、LLCと株式会社を比べた場合、LLCが
定款自治により内部関係、損益分配を柔軟に決定することができるというメリットがあります。株式会社の内部関係、損益分配については柔軟性が欠けることは、LLPと株式会社の比較で触れた通りです。他方、株式会社は持分の譲渡について株式の譲渡を自由にできるというメリットがあります。人的組織であるLLCは持分を自由に譲渡できません


A各事業体別のメリット・デメリット
 各事業体の比較でメリット・デメリットの概要を見てきましたが、以下ではそれぞれの事業体別に少し詳しく見ていきましょう。

 (1)株式会社
 
透明性が高く、社員である株主からの信頼が得やすいため資金を集めやすい、また、株式の譲渡が自由であるというメリットがあります。その反面、株主総会、取締役等を設置しなくてはならないため、内部関係の柔軟性に欠け、かつ設立の手続が煩雑です。また、損益配分は出資額に応じて配分されることとなります。出資金の制限がなくなり、1円会社も設立可能となったお陰で株式会社を設立することが容易になりましたが、設立の手続に要する時間はLLC・LLPよりも多くかかります

 (2)LLC
 
定款自治により内部関係も柔軟に設置することが可能です。株式会社と異なり、必ずしも取締役などの業務執行役を設置する必要はありません。そのため、株式会社と比べると設立に要する時間を短縮することができます。もちろん業務執行役を置くことも可能で、その場合は業務執行役が原則としてLLCの代表者となります(会社法599条1項)。また、損益分配についても定款自治により定めることができます。但し、持分を譲渡するには他の社員全員の一致が必要となります。また、LLPのような構成員課税を用いることができません

 (3)LLP
 
組合契約を通じて内部関係を自由に決めることが可能です。また、損益分配も自由に決定することができます。そして、構成員課税を行うことができることが最大の特徴となります。これにより二重課税されないので、節税効果を期待することができます。また、設立期間は約10日間と、株式会社と比べると約2分の1程度の時間で設立することができます。
 その一方でLLCと同じく構成員である社員の個性が重視されるので、持分を自由に譲渡することはできません。また、株式会社、LLCと異なり法人格をもたないので、契約の当事者となるためには登記する必要があります。

(図3 LLP、LLC、株式会社の共通点・相違点)
LLP LLC 株式会社
共通 有限責任
相違 @内部関係柔軟取締役等の業務執行役、監視機関等を置く必要なし @透明性が高いが、内部関係の柔軟性に欠ける株主総会、取締役会等を設置しなければならない。
ALLPは、損益分配を自由に決定 できる。 A定款自治で損益配分を定めることができる。その定めがない場合は出資額に応じる。 A出資額に応じた損益配分議決権行使
B構成員課税 B法人課税
C持分自由に譲渡することができない C持分の譲渡について、株式の譲渡が自由
D法人格なし D法人格あり

 以上のように各事業体にはそれぞれメリット・デメリットがあり、事業規模や事業目的などに応じた事業体を選択する必要があります。また、手続に要する時間、費用によっても選択するべき事業体は変わります。専門家の意見を聞いた上で慎重に事業体を選択しましょう。

6.LLPとLLCの有効活用


LLPの有効活用
 LLPでは、LLP自体には課税されず、出資者である組合員に直接課税(パス・スルー)される。そのため、株式会社、LLCのような経済的二重課税の問題は発生しない。したがって、LLP自体は納税義務を負わないことから、納税調査を受けることはない。ただし、組合員の税務調査を通じてLLPの税務調査が行われる可能性があります。
 また、経済産業省「有限責任事業組合(LLP)制度の創設について」(平成17年6月)ではLLPの有効な利用方法について以下のような仮想事例が掲げられています。

<LLPの有効利用の仮想事例>
@高度サービス産業(例:ソフトウエアの専門人材集団、映画製作)
A中小企業連携(例:金型メーカーと成形加工メーカーの連携)
Bベンチャー(例:大手機械メーカーとベンチャー企業との共同開発)
C産学連携(例:ゲノム解析の応用研究を進める大学発ベンチャー)
D研究開発(例:大手半導体メーカー同士の共同研究開発、燃料電池の共同研究開発)
E産業再編(例:石油業界・石油生産部門における設備の効率的利用)
F物流の効率化(例:農家と食品加工・流通業との連携)

<LLPの具体例>
 LLP設立の具体例としては、@NTTドコモ、JR東日本、NTTデータの3社による電子マネー「Suica電子マネー」の普及を図るためのLLP設立、ATBSによるLLPを活用した映画制作、BNTTドコモ、日本テレビ放送網による携帯電話とテレビ番組を連携させた新たなサービス等を共同で検討することを中心とした業務提携のLLPを設立 など数多くのLLP設立が行われています。また、IT関連業者、建設業界など中小企業などによるLLP設立活動も盛んです。最近では、米マイクロソフトがNTTデータと共同で「オープンキューブデータ有限責任事業組合」の設立を明らかにしました。オープンキューブデータ有限責任事業組合は2007年10月1日から事業を始め、存続期間は当面2年半の予定となっています。


LLCの有効活用
 LLCは法人格を有しているため、契約の主体となることができます。さらに定款自治により、迅速な意思決定を行うことが可能であるため、国際的な合弁事業に活用されることが見込まれています。このように合弁事業では大規模な資金調達を必要とし、迅速な対応が必要であるため、合同会社を採用することが有効だと思われます。

<LLCの具体例>
 LLCの具体例としては、@全日本空輸とインターコンチネンタル・ホテルズ・グループ(IHG)によるホテルを運営する共同出資の合同会社(LLC)を立ち上げ、A株式会社フジテレビジョン、伊藤忠商事株式会社、株式会社NTTドコモ、株式会社スカイパーフェクト・コミュニケーションズ、株式会社ニッポン放送の5社による、日本が開発した地上デジタル放送方式ISDB-T方式を用いた新しいマルチメディア・サービスを研究、その有用性をプロモーションすることを目的とした、「マルチメディア放送企画 LLC合同会社」(Multimedia Broadcasting Planning LLC. 略称MMBP)が設立されています。LLCは新会社法が施行されて3ヶ月の2006年7月段階で既に1000社を超えており、今後もさらにその数が増えていくことが見込まれています。

7.LLP・LLCの設立・登記・解散


(1)LLPの設立から解散まで

(a)LLP設立手続
 LLPは、組合契約の作成出資金の払込現物出資の給付組合契約登記申請組合契約登記の完了という流れを経て行われます(図4『LLPと株式会社の設立手続の比較』参照)。
 LLP設立は、株式会社に比べて設立手続が簡素です。また、LLP設立手続は、株式会社の設立と比べると、「公証人による定款の認証」、「設立総会」の手続を経る必要がないため、設立が迅速かつ容易に行うことができます。

(図4 LLPと株式会社の設立手続の比較)

(出展:パートナーズ国際会計事務所『LLP・LLCの税務・会計ガイド-有限責任事業組合・合同会社の活用と経理-』(中央経済社、2006)26頁参照)

(b)LLP設立手続きの流れの詳細とその書式
1)組合契約の作成
(書式:組合契約書

 組合契約とは「有限責任事業組合契約に関する法律」(以下、「LLP法」とする)において「個人又は法人が出資して、それぞれの出資の価額を責任の限度として共同で営利を目的とする事業を営むことを約し、各当事者がそれぞれの出資に係る払込又は給付の全部を履行することによって、その効力を生ずる」契約と規定されています(LLP法3条@)。LLP設立手続は株式会社設立手続に比べると容易になった分、組合契約の記載事項を十分検討・精査した上で組合契約の登記を行いましょう。
 また、組合員のうち、1人以上は、国内に住所を有しているか現在まで引き続き1年以上居所を有している個人、または、国内に本店か主たる事務所を有している法人でなければなりません(LLP法3A)。また、債務を免れるためにこれを濫用してはいけないことになっています(LLP法3A)。また、債務を免れるためにこれを濫用してはいけないことになっています(LLP法3B)。

<記載事項(LLP法4条B)>

@組合の事業(但し、有限責任のため、LLPの事業として適当でない場合があります。(例)公認会計士etc)
A組合の名称
B組合の事務所の所在地
C組合員の氏名又は名称及び住所
D組合契約の効力が発生する年月日
E組合の存続期間
F組合員の出資の目的及びその価額
G組合の事業年度(1年を超えることができない)

2)出資金の振込(LLP法3条@)
(書式:出資払込金受入証明書
 組合契約が効力を生じるためには、各当事者がそれぞれの出資に係る払込又は給付の全部を履行する必要があります。出資金の払込の方法についは、出資払込金受入証明書の他、 銀行口座による振込みによって払込みがされた場合には、銀行等における口座の預金通帳の写しによっても行うことができます。

3)組合契約登記申請(LLP法57)
(書式:有限責任事業組合契約効力発生登記申請書,OCR用記載例,委任状, 印鑑届出書
 組合契約が効力を生じたときは、主たる事務所の所在地においては2週間以内に登記しなければいけません(LLP法57条)。また、組合契約の効力の発生の登記の申請書には、法定の内容を具備した書面を添付しなければなりません(LLP法67条)。

<組合契約のうちの登記するべき事項(LLP法57条)>
@組合の事業
A組合の名称
B組合員の氏名又は名称及び住所
C組合契約の効力が発生する年月日
D組合の存続期間
E組合の事務所の所在場所
F組合員が法人の場合は職務を行うべき者の氏名及び住所
G法定の解散事由以外の解散事由を定めた場合はその事由

<組合契約の効力の発生の登記の添付書面(LLP法67条)>
@組合契約書
A第三条第一項に規定する出資に係る払込み及び給付があったことを証する書面
(組合員が法人であるときは、以下の書面)
B当該法人の登記事項証明書。
C当該組合員の職務を行うべき者の選任に関する書面
D当該組合員の職務を行うべき者が就任を承諾したことを証する書面

4)組合契約登記の完了
 経済産業省の認定は不要です。但し、従業員を雇用する場合の労働基準監督署への届出などが別途必要となります。

(c)LLPの解散・清算
@)解散事由
 組合は、法定の解散事由によって解散します。 但し、その事由が生じた日から2週間以内であって、解散の登記をする日までに新たな組合員を加入させた場合には解散しないことができます(LLP法37条)。

<解散事由(LLP法37条)>
@目的たる事業の成功又はその成功の不能
A組合員が一人になったこと
B組合員に居住者または内国法人のいずれもがいなくなったこと
C存続期間の満了
D総組合員の同意
E組合契約書において前各号に掲げる事由以外の解散の事由を定めたときは、その事由の発生

A)清算
1)清算人の選定
 組合が解散したときは、組合員がその清算人となります。ただし、総組合員の過半数をもって清算人を選任することも可能です(LLP法39条)。
 法人が清算人である場合には、その法人は、清算人の職務を行うべき者を選任し、その者の氏名及び住所を組合員に通知しなければなりません(LLP法43条)。

2)解散の登記・清算人の登記
(書式:解散及び清算人就任登記申請書

 解散の登記について、組合が解散したときは、主たる事務所の所在地においては2週間以内に、従たる事務所の所在地においては3週間以内に、解散の登記をしなければなりません(LLP法62条)。また、解散の登記の申請書には、その事由の発生を証する書面を添付しなければなりません(LLP法69条)。
 清算人の登記について、組合員が清算人となったときは、解散の日から、主たる事務所の所在地においては2週間以内に、従たる事務所の所在地においては3週間以内に、次に掲げる事項を登記しなければなりません(LLP法63条A)。また、清算人の登記には以下の添付書面が必要となります(LLP法70条)。

<精算人の登記事項(LLP法63条)>
@清算人の氏名又は名称及び住所
A清算人が法人であるときは、当該清算人の職務を行うべき者の氏名及び住所

<清算人の登記の添付書面(LLP法70条)>
1.清算人が、総組合員の過半数をもって選任された場合
@総組合員の過半数の一致があったことを証する書面
A選任された者が就任を承諾したことを証する書面
2.精算人が裁判所によって選任された場合、その選任を証する書面


3)清算人が就任後遅滞なくすべき業務

(財産目録等の作成等)
 清算人は、その就任後遅滞なく、清算中の組合の財産の現況を調査し、解散事由に該当することとなった日における財産目録及び貸借対照表を作成し、各組合員にその内容を通知しなければなりません(LLP法44条@)。また、清算人は、財産目録等を作成した時から清算中の組合の主たる事務所の所在地における清算結了の登記の時までの間、この財産目録等を保存しなければなりません(44条A)。

(債権者に対する公告等)
 清算人は、その就任後遅滞なく、組合の債権者に対し、一定の期間内にその債権を申し出るべき旨を官報に公告し、かつ、知れている債権者には、各別にこれを催告しなければなりません。ただし、この期間は、2月を下ることができません(LLP法46条@)。

(清算からの除斥)
 清算中の組合の債権者(知れている債権者を除く。)であって2月内にその債権の申出をしなかったものは、清算から除斥されます(LLP法50条@)。但し、これにより清算から除斥された債権者は、分配がされていない残余財産に対してのみ、弁済を請求することができます(LLP法50条A)。

4)清算人による清算事務等
(清算人の業務執行の方法) 
 清算人が数人あるときは、清算に関する業務執行は、清算人の過半数をもって決定する。ただし、清算の常務は、その完了前に他の清算人が異議を述べない限り、各清算人が単独で行うことができます(LLP法41条@)。

(清算人等の第三者に対する損害賠償責任)
 清算人等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、清算人等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います。この場合において他の清算人等もこの損害を賠償する責任を負うときは、連帯責任を負うことになります(LLP法42条)。

(債務の弁済の制限)
 清算人は、債権者に対する広告・催告している期間内は、清算中の組合の債務の弁済をすることができません。この場合において、清算中の組合の組合員は、その債務の不履行によって生じた責任を免れることができません(LLP法47条@)。但し、裁判所に許可を得ることができれば弁済することもできます(LLP法47条A)。

(債務の弁済前における残余財産の分配の制限)
 清算人は、清算中の組合の債務を弁済した後でなければ、当該組合の財産を組合員に分配 することができない。ただし、その存否又は額について争いのある債権に係る債務についてその弁済をするために必要と認められる財産を留保した場合は、この限りではありません(LLP法49条)。

5)清算事務の終了
 清算人は、清算事務が終了したときは、遅滞なく、清算に係る計算をして、組合員の承認を受けなければなりません(LLP法51条@)。組合員が1月以内に前項の計算について異議を述べなかったときは、組合員は、当該計算の承認をしたものとみなされます。ただし、清算人の職務の執行に不正の行為があったときは、この限りではありません(LLP法51条A)。

6)清算結了の登記
(書式:清算結了登記申請書
 組合の清算が結了したときは、清算事務の終了の承認の日から、主たる事務所の所在地においては2週間以内に、従たる事務所の所在地においては3週間以内に、清算結了の登記をしなければなりません(LLP法64条)。


●書式一覧
〇契約効力発生
組合契約書
出資払込金受入証明書
有限責任事業組合契約効力発生登記申請書
OCR用記載例
委任状
取締役会議事録
就任承諾書
印鑑届出書

〇解散及び清算結了登記申請
解散及び清算人就任登記申請書
清算結了登記申請書


(2)LLCの設立・登記

 会社法における会社形態として株式会社持分会社があります。両者の違いは出資者の個性が重視されるか否かにあります。持分会社は責任の程度によって3つに分類することができます。全構成員有限責任として新たに創設された合同会社(LLC)無限責任が最低1人以上である合資会社全構成員が無限責任である合名会社です(会社法576A〜C)。なおLLCの税務について現段階では、合名会社と同様に法人税が課されることが想定されています。


(図5 株式会社、持分会社の特徴)
会社形態 株式会社 持分会社
全構成員有限責任 株式会社 合同会社
無限責任(最低一人以上) *** 合資会社
無限責任(全構成員) *** 合名会社
出資者の個性 重視されない 重視される



(a)LLCの設立手続
 社員による定款の作成(会社法575)→出資に係る金銭の払込(会社法578)又は出資に係る財産の給付(会社法578)→設立登記(会社法579)という流れを経て行われます(下図『LLCと株式会社の設立手続の比較』参照)。

(図6 LLCと株式会社の設立手続の比較)

(出展:パートナーズ国際会計事務所『LLP・LLCの税務・会計ガイド-有限責任事業組合・合同会社の活用と経理-』(中央経済社、2006)95頁参照)

(b)LLC設立手続の流れの詳細
1)定款の作成
 合同会社を設立するためには、その社員になろうとする者が定款を作成し、その全員がこれに署名、又は記名捺印しなければなりません(会社法575)。
 合同会社は人的会社であるため、社員全員で定款を作成することが求められています(株式会社でいう発起設立)。なお、株式会社で要求されている定款についての公証人の認証は必要とされていません。定款作成における絶対的記載事項は以下のとおりです。

<定款の絶対的記載事項(会社法576条)>
@目的
A商号
B本店の所在地
C社員の氏名又は名称及び住所
D社員の全部を有限責任社員とする旨
E社員の出資目的(金銭等に限る)及びその価額又は評価の標準

2)出資に係る金銭の払込、又は、出資に係る財産の給付

3)設立登記
 合同会社はその本店の所在地で設立の登記をすることによって成立します。登記事項については以下のとおりです。

<登記事項(会社法914条)>
@目的
A商号
B本店及び支店の所在場所
C存続期間又は解散事由(定款に定めがある場合)
D資本金の額
E業務執行社員の氏名又は名称
F代表社員の氏名又は名称及び住所
G代表社員が法人である場合は職務執行者の氏名及び住所
H公告の方法


8.おわりに

 以上、LLPとLLCの有効活用とその設立・登記・解散までを概観してきました。眠っていた人的資産・無形資産をLLP・LLCを用いて最大限生かすことは、事業の効率化、研究開発の促進につながる大きな可能性を秘めています。LLP・LLCのメリット・デメリットを把握した上で、有効活用していきましょう。
 但し、事業形態の選択と設立を始めとするその後の手続では、事業の性格とニーズを踏まえた上で、適切な判断と手法を見極めることが不可欠となってきます。やはり、現実的には専門家のアドバイスが欠かせないと言えるでしょう。是非、当事務所にお気軽にご相談下さい。

◆参考文献◆

・パートナーズ国際会計事務所『LLP・LLCの税務・会計ガイド-有限責任事業組合・合同会社の活用と経理-』(中央経済社、2006)
・宮田ほか『日本版LLP実務ハンドブック』(商事法務、2006)5頁
・平野嘉秋『Q&AによるLLP/LLCの法務・税務・会計』(税務研究会出版会、2005)
・根田正樹・矢内一好(編)『合同会社・LLPの法務と税務』(学陽書房、2005)
・川田剛『日本版LLP・LLCの理論と税務-多様な事業体のすべて-』(財経詳報社、2005)
・大浦勇三『図解 日本版LLP/LLCまるわかり』(PHP研究所、2005)
・相澤哲『一問一答 新・会社法』(商事法務、2005)183頁以降
・経済産業省産業組織課(編)『日本版LLC-新しい会社のかたち-』(金融財政事情研究会、2004)

             

〜目次〜

1.LLP・LLCとは
2.LLP制度について
3.LLC制度について
4.LLPとLLCの共通点と相違点

5.LLP・LLCと株式会社の共通点と相違点

6.LLPとLLCの有効活用
7.LLP・LLCの設立・登記・解散(LLP書式)
8.おわりに